ゴッホ。岐阜新聞 素描 5 - 中風美術研究所 | 岐阜の美大・芸大受験予備校
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2019.12.17

ゴッホ。岐阜新聞 素描 5

 素描5

タイトル ゴッホ

りんごという文字を読んだ人の数だけ、違う映像イメージが生まれる。それを畏れなく描くことが、現代美術の第一歩である。この世界を細部まで、記号である文字で表現すればするほど、文字を表現手段とする科学は進化するが、埋まらない隙間をも露わにする。その言葉にならない隙間こそ謎であり、現代美術の住みかである。現在まで、そこには数多くの「神」が棲んだり、時代時代の哲学者によってモデルが創作されてきた。

 ゴッホは37歳の夏、右乳首数センチ下部からピストルで自らを撃ち、左下肋骨で弾が止まった。熱狂的なキリスト信者であった彼は、見習い修道士としてのゆき過ぎた行状とおびただしい飲酒、買春によりクビになってしまう。その後、貧しさに苦しむ人々を描いて救いたいと、27歳で画家を目指す。暗鬱な褐色で、ひたすら素描を勉強しながら疲弊した農村や農民を描いていたが、1886年、パリ在住の弟テオを頼り、上京することで印象主義や日本の浮世絵に出合い、外光に視線が向かった。明るい作風へと変化し、88年、ゴーギャンと過ごすために向かったアルルでは、われわれに馴染み深い、色彩豊かなセレニテ(清澄)なゴッホ芸術を確立させる。

 彼の稀有で鋭敏な目は、精霊や不可視の神を求めて自己内面へ向いていたが、外に向くことでキリストの誕生から1888年後の最先端に自覚なく、一気に放り出された。飲酒や梅毒、癇癪による発作に苦しみながら、人間ゴッホの世界を思わず掴んでしまい、神の不在に恐れおののき、神の存在を確かめるために、即死を避け腹を撃ったのではないか。

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